INTERVIEW Vol.08
飯沼 珠実 / Tamami IINUMA


interviewed by 大山 光平 / Kohei OYAMA 

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Sangenjaya, 2013


2014年1月11日から2月28日までG/P+g3/ Galleryにて開催中の「THE EXPOSED #7」。このショーケースに参加する6名の写真家 / アーティストにインタビューを行う。
第一弾は、東京の大学院に籍を置きながらパリでの制作活動を行っている飯沼珠実。写真、本、都市、伝統文化など幅広い興味の対象を持ち、好奇心に突き動かされながら活動の幅を広げているように見える。



2008年からドイツに住まれていますが、海外へ行こうと思ったそもそものきっかけはどういったことですか?

2006年から2008年まで多摩美術大学大学院の修士課程に在籍していた頃、ゼミがとても国際的で日本人がふたりしかいませんでした。英語やフランス語が飛び交うような、わたしにとってはまさかの駅前留学状態だったのですが、彼らと時間を過ごしていくうちに、修了後は自分が海外へ行きたいと考えるようになりました。
ちょうど2006年が「日本におけるドイツ年」ということで、ドイツの芸術文化の紹介が盛んに行われていました。国立近代美術館「ドイツ写真の現在-かわりゆく「現実」と向かいあうために」を鑑賞したのがきっかけで、留学先としてドイツを思い描き始め、出展作家でもあったハイディ・シュペッカー教授のクラスに入学が決まったので、渡独を決めました。


本への興味はライプツィヒで深まったという感じでしょうか?

2007年から2008年にかけて、友人とふたりで月刊で「写真新聞」というフリーペーパーの制作を行っていました。1枚の紙で片面はカラーで写真、もう片面はモノクロでテキストというシンプルな構成で、友人も写真を撮っている人でしたので、毎月交代で取り組み、半年くらいは続けました。
ドイツで写真とブックアートのコラボレーション作品を目にする機会が増えて、その密接な関係に興味を持つようになりました。表現手段として「本」という形態に可能性をみたのは、ライプツィヒに行ってからです。



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上 : THE EXPOSED #7 展示風景
左 : タイトルが活版空押しされたブックマット

























EXPOSED #7出展作品の解説をお願いします。

出展作品「Landscape in Modern Architecture」は、ドイツ・デッサウ市にあるバウハウスの校舎と、教授の宿舎(マイスターホイザー)を被写体にしています。バウハウスにおける色彩論の多角的な観点を背景として、6名の教授(Martin Gropius、László Moholy-Nagy、George Muche、Oscar Schlemmer、Paul Klee、Wassily Kandinsky)が個人的なスペースである「居住空間」の色彩計画を実践した場所、と説明することができます。
作品の編集コンセプトとして「部屋の角」を、都市風景を構成する最小の単位と仮定しました。そこから部屋-建築-建築の集合-都市という伸縮上で任意に起こる小さなイベント(出来事)を、写真表現におけるスナップショットの手法によって切り取られるイメージと位置づけ、その都市風景の概念を「本」という空間で表現したいと考えました。わたしは都市風景の形態を織物のようなものだと捉えています。「角」と「角」を結んで縦糸とし、それに路上での匿名の出来事の連続という横糸が絡み合っているような構造を考えています。



特装版のアーティストブックは非常に完成度が高く、豪華ですね。ブック制作のプロセスやエピソードなどを聞かせて下さい。

ありがとうございます。このブックはいくつかの経験と思考が織り重なっています。
まず、本という媒体の特徴について考えました。複製性、頒布性、携帯性、大衆性などを挙げることができると思います。特にフォトブックの分野におけるzineの流行は、上記のような特性がインターネットと見事に共鳴して、爆発的に広がっていったという感覚があります。2012年に制作した「Salute, Mr.Taut - 12 photographs of Bruno Taut's architecture by Tamami Iinuma」では、ブルーノ・タウト建築の色彩と、わたしが今日の路上で見つけた色彩とを写真のフレーム内で構成した写真を収録しています。その色彩を個々が手の中で楽しく遊べるような、それを通してタウト建築を体験できるようなブックにしたいと思って、軽快なフォーマットでzineに仕上げました。
zineにはzineの面白さがあります。しかしzineの特徴と、自分にとっての「本」の良さにズレがあるようにも感じました。ウィリアム・モリス著『理想の書物』にはこのような言葉があります。「最も重要な「芸術」を問われたなら「美しい家」と答えよう、その次に重要なのは「美しい書物」と答えよう―。」わたしは「本」はそれ自体が、知性や文化さらには言霊や写霊が宿る「美しい家」のようなものだと思うのです。

zine制作を踏まえ、今度は建築物のようなずっしりとした本をつくりたいと思った時に、建築家ならぬ造本家が必要となりました。わたしにはオブジェクトのデザイン(というか希望)はいくらでもアイデアを出せますが、それを実現する技術(構造デザイン力)がないからです。現在はドイツ・ハレの美大の造本専門課程でマイスターシューラーをしている太田泰友さんの活動「造本見本帖」の制作物が、わたしにはミニマルで、コンセプチュアルな美術作品のように見えていて、自分の作品とも通じるものがあるかもしれないと思い、相談して依頼しました。
エピソードは色々あります。ドイツは日本のように宅配業者がしっかりしていないので、待てど待てど材料が届かず(結局1週間以上届かなかった)、それでも期日は迫っているし、というところで、今手元にある材料でなんとか仕上げようという決断をしなくてはいけないタイミングがありました。逆境に見舞われて、あえてパッペ(グレーの厚紙)の断面をわざと見せるデザインという案を出しました。わたしは紙の断裁機の佇まいに魅了されていたので、この機械のなせる技を見せたいという思いつきからでした。太田くんもゴーサインを出してくれて、最終的にはコンクリート打ちっぱなしの建築のような、ひとつ「表現」として成立したと思うので、良かったなと思います。

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上 : THE EXPOSED #7に出品したアーティストブック
「Landscape in Modern Architecture」

左 : 和綴じのアーティストブック 「schwarzchild」

























被写体も含めて、手製本のブックや活版を押したマットなど、伝統的な文化への関心が伺えます。

額装の写真のマットはブックマットなんですよね。額の中は、製本テープのようなもので張り合わされた厚紙2枚で写真を挟んでいる感じで、その一枚に窓を開けて写真を見せています。"ブック"マットだから、そこに活版を押すのも流れにのったアイデアでした。これは東京で、自分で押しました。
グーテンベルグに根付いた印刷術はヨーロッパの伝統文化に関心はありますが、日本でも木版印刷の歴史は7世紀くらいまで遡ることができて、グーテンベルグよりも遥かに古いものです。ヨーロッパでは「手製本」を「Watoji」という人がいるほど、また印刷のクオリティ、紙の繊細さ、ディテールへのこだわりなどは、ある種「日本的なもの」と捉えられていると感じます。単純な部分で、スクリーンの時代だからこそ紙へのフェティッシュが強くなるのだとすると、それはグローバルな感覚であると思っています。



今後の予定を教えてください。

2014年度は博士論文に集中的に取り組もうと考えています。<「本」と美術>というテーマで、「アーティスト・ブック」という分野を、美術史に位置づけていきたいと考えています。特にル・コルビュジエが生涯で33冊制作したという、ブック形式の作品に興味があります。彼が「本」という形式を建築と見立て、なにを実現させていたのか、調査をしています。作品に関しては、リヨン、ライプツィヒ、東京、京都などでの展示が予定されています。また「Landscape in Modern Architecture」の広頒布版の制作も計画しています。


Feb.2014


飯沼珠実

東京都生まれ。多摩美術大学博士前期課程修了後、渡独。公益財団法人ポーラ美術振興財団在外派遣員など五年間のドイツ滞在を経て、2013年度より東京芸術大学大学院博士後期課程在籍。都市建築をテーマに撮影、イメージとイメージの関係を紡ぎながら、本という空間を構築する。撮影、編集、ブックデザイン、プリント、製本を自身で行う。

Website : www.tamamiii.com